石窯のカタチ(1)基礎編

石窯のデザイン:設計による性能の違いはどのように表れるか?

高温を得ることができるかどうか

石窯に一番必要な性能は、窯内部の調理スペースを高温にできるかどうか、ということです。

例えば、ピッツアを焼く時に、石窯の基本性能の違いを思い知ることになります。ピッツアは450℃ほどの高温を必要とします。炎の高温を窯に閉じ込めることができるドーム型に近い形状であるほど上手に焼くことができます。ただし、後の項目で説明をしますが、速く炉内が高温になるというのは、速く冷めやすいということを意味しますので、蓄熱性能とトレードオフ(両立しない)の関係にあります。

均一な熱を得ることができるかどうか

ドーム型では、薪から立ち昇る炎の高温ガスは、壁、天井に均一に分散してオーブンの床を放射熱で温めますが、ドーム型以外では不均一な加熱となります。薪の燃えカスを石窯から取り出してからも、上手にパンなどを焼くことができるのは、放射熱を上手に使うことができるドーム型の窯です。

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調理温度を維持することができるか

適当な温度を維持できるかどうかは、石窯の大きさや蓄熱素材の有無、石窯の周りに保温素材を配置しているかどうかなどに左右されます。ある程度蓄熱性を持った石窯でないと、温度変化が激しくて、使いにくい石窯になってしまいます。
・・・簡単に言うと、小さな石窯は使いにくく、大きな石窯は使いやすいということです。

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天井の高さについて

石窯の天井の高さ(内寸法です)は重要です。あまり高いと、高温のガスは天井付近に滞留し、放射熱の発生源である天井と、床との距離が離れてしまいます。ですから、天井の高さは最低限でなければなりません。薪の燃焼と、調理に必要な高さに支障が無い限り、低い方が良いと考えてください。

石窯の仕上がり外観

一般家庭用に販売されている石窯キットの場合には、ブロックなどで炉体の形をかたどるだけのものがほとんどです。プロが使うような本格的な石窯の場合には炉体の上下左右に蓄熱用の土砂などを積み上げるなど、高温を蓄える部材を設けるために大型化することになります。

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本格石窯の製作工程

開口部高さの重要性

良い石窯の条件として、非常に重要な点があります。それは、炉室天井の高さと開口部の高さとのバランスです。「開口部」とは、調理をする際に食材を出し入れするためにぽっかり空いた穴です。
この開口部が炉室天井の高さに比べて高いと、炎は、炉内を熱するより前に排気されてしまいます。

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開口部の高さの「黄金比率」は絶対か?

石窯の専門書やインターネットサイトを見ると、開口部の高さは「石窯の内部天井高さ×63%が黄金比率」と表現されているのを発見しました。

この数字の根拠は何でしょうか?…この「黄金比」は1979年に行われた、カナダ国ケベック州の特定地域内での石窯の研究にその起源を持っているようです。この研究の結果は『ケベック州のパン焼き窯』という書籍で紹介されました。現在いわれる『黄金比率』は、もしかすると「ケベック州のある地域での平均値」が数値として独り歩きをしているのが実態ではないか・・・と考えられています。実際のところ、調査対象となった石窯の【開口部高さ÷内部天井高さ】比率は、最小値は44%、最大値は87%でした。さらに、この調査の対象となった石窯の形状も標準化されていないようです。調査のサンプリング対象となった石窯は、特定のタイプのものばかりだったようです。

このようなサンプリング調査方法で得られた「黄金比率」にどれほどの意味があるのか、と疑問を呈する意見があります。開口部の最適高さは、石窯の形状や、煙突の有無や、配置によって相対的に決まるものだ、という指摘です。
とはいえ、開口部高さを炉室天井高さの3分の2程度に設計したものは概ね良い性能を発揮しているようです。

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書籍「ケベック州のパン焼き窯」

正しい開口部高さについての原則

開口部の形状

開口部と炉内高さのバランスには、多く因子が関係しています。長方形開口部とアーチ状の開口部を比べると、開口部の上端が同じ高さの場合には、四角形の開口部からは高温の空気がより簡単に出て行ってしまいます。
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アーチ状の開口部
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四角形の開口部

煙突についての考察

煙突も熱流出経路の一つです。

煙突がついている場合には、煙突が熱せられてくると、炉内の空気が煙突にどんどん引っ張られるということを考慮しなくてはなりません。この場合、開口部よりも、煙突によって貴重な熱が(活用されることなく)排出されてしまうことになります。煙突の最下部(火室内で上方向に向けて排気が始まる位置)が、調理用の開口部に比べて高い位置にあるほど簡単に高温空気が排気されてしまうことになります。このような石窯は効率の悪い窯であるといえるでしょう。

排気の流出のルート、つまり、窯の戸口または内部煙突の下端が窯内部高さの三分の二ほどだと、窯がよく働きます。外部煙突の場合、排気ポイントがそれよりも高すぎると高温空気は外部にどんどん排出されてしまって、多くの熱が失われてしまいます。

一方、排気ポイントが炉内高さの3分の2よも低いか、低いだけでなく狭すぎたりすると、窯に入る新鮮空気の流れを妨害し、薪の燃焼が困難になってしまいます。

開口部の幅の広さや、窯の容量に対する開口部の面積の比にかかわらず、一番重要なのは排気経路の高さと窯内部の天井高の比になります。

極端に開口部の幅が広い窯の例があります。窯いっぱいの幅を料理に使うために、窯の開口部は端から端までとってあります。こんなに開口部の幅が広くても、高さがバランスよく低く抑えてあれば、しっかりと機能します

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極端に開口部の広い窯